株式会社アクト 代表取締役 内海 洋氏(52歳)
酪農大国十勝で「北海道産低品位石炭を活用したパーラー排水浄化システムの開発」に成功。農業施設メーカー(株)アクトの内海洋社長を軸とする産学官連携プロジェクトの道のりは、決して平たんではなかった。「すべてはお客様のために」という情熱から始まった研究開発の歩みを振り返ると、産学官連携に必要なあらゆる要素が見えてくる。
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取材場所は帯広畜産大学。地域連携推進センターでの顔合わせもそこそこに「行きましょうか」と、同じ構内にある畜産フィールド科学センターへ案内された。ここに今回の主役である「北海道産低品位石炭を活用したパーラー排水浄化システム」の実証プラントがあるという。詳細は後で聞くとして、まずは「生乳が混入した排水を浄化する」という基本システムだけを頭に入れて実証現場を見ることにした。
中に入ると、見上げるほどに大きい水槽数基が二列に並んでいた。階段を上がり開口部からのぞきこんだ原水槽には、にごった液体が見える。「これは実際に約80~100頭の牛を搾乳する学内のミルキングパーラーから出る酪農排水です。少し白っぽいのは廃棄乳が混じっているから」と、アクトの内海社長が解説する。
浄化の要は、特殊セラミック槽と活性化石炭槽の連続処理にある。特殊セラミックが酪農排水中の乳脂肪分を微生物が食べやすい形に変え、次の活性化石炭槽で微生物が分解する。通常の石炭よりも多孔質な構造をしている低品位石炭を “すみか”とする微生物は排水の変化による影響を受けにくく、安定した働きで排水を浄化する。その後、凝集沈殿槽で汚泥を沈め、上澄みの水だけを放流するシステムだ。「いくつもの水槽を経て最後はこうなるんです」と内海社長がひしゃくですくった水を見て驚いた。先ほどのにごった排水が、一見すると飲み水と変わらないほどの透明度にまで浄化され、臭いもしない。「排水中の乳脂肪分は腐敗すると悪臭の原因になり、酪農家の目に見えない悩みでした。今はこの水をパーラーの床洗浄や家畜の飲み水に活用できないかと考えています」、内海社長のまなざしはすでに新たな目標に向かっていた。

排水の浄化度合い。左端が原水槽で、右端の放流槽に行くころにはほとんど透明に浄化されているのがわかる

帯広畜産大学の畜産フィールド科学センターにある実証プラント。「北海道で重要な低温下での稼動も検証ずみ。水温が5度でも浄化できます」(内海社長)
プラントを見学後、地域連携推進センターに戻って産学官連携コーディネーターの田中一郎さん、藤倉雄司さんも交えてお話をうかがった。そもそも産学官連携プロジェクトとは、<あるニーズの実現>を目指す民間企業の相談から始まるケースがほとんどだ。今回も、農業施設メーカーとして酪農現場に精通する内海社長が掘り起こしたニーズが核となった。<廃棄乳を混入した酪農排水の浄化>である。
頭数規模が多い酪農業では毎日の搾乳作業に伴い、牛の乳房やミルクラインの洗浄などの酪農排水が大量に出る。資料によると十勝の酪農家1790戸から一日8,500キロリットルのパーラー排水が出ており、従来の地下浸透や希釈・拡散処理では到底追いつかない量に膨れ上がっている。しかも、乳房炎の牛から搾乳された廃棄乳は抗生物質などが含まれているため、現場では排水と分けて処理をする“二度手間”が余儀なくされている。
そこで立ち上がったのが、「すべてはお客様のために」を経営理念とするアクト内海社長である。「食をあずかる農業は高貴な仕事。酪農家の皆さんを応援するため、廃棄乳が混入しても処理可能なパーラー排水浄化システムができないものかと研究開発に乗り出しました」。

写真左から帯広畜産大学地域連携推進センターの産学官連携コーディネーター田中一郎さん、藤倉雄司さん
ニーズをつかみ、浄化槽管理士などの国家資格も取得した内海社長だったが、当初の研究開発は手探りの自社開発から始まった。産業技術総合研究所関西センターと関係ができ浄化槽の試作段階まで進んだものの、いざ北海道で試運転をするとうまくいかない。協力団体が遠方であることの難しさを実感し、それ以上に開発資金の工面に内海社長は苦しんだ。牛舎やパーラーなど農業施設建設による売上の一部を研究費にあてる自社開発は「中小企業の力だけでは必ず限界がきます」。心配した周囲から「相談に行ってみては」と教えてもらった先が、帯広畜産大学の地域連携推進センターだった。
そこでHiNTを紹介された内海社長は平成17年に札幌のHiNTオフィスを訪問。産学官連携コーディネーターの太田英順さんに一連の話をしたところ、「すぐに研究目的に合う採択事業に申請しましょう」とアドバイスされ、共同研究への扉を開くことになる。
「太田さんがそのときに勧めてくださった申請事業が、経済産業省の地域資源活用型研究開発事業。酪農排水処理を地域資源とどう結びつけるのかという課題にも、“道産の活性化石炭を活用すれば適応できる”という太田さんの慧眼に我々は膝を打つ思いでした」。
活性化石炭の協力企業は、旧太平洋炭礦の釧路コールマインが100%出資したKCMエンジニアリングだ。こうした道内企業へのアンテナを持ち、申請ノウハウを熟知したアドバイザーの存在が産学官連携には欠かせない、まさにその実例だったと内海社長は振り返る。

アクトは農業施設専門のメーカー。生体工学を重視したフリーストール牛舎や搾乳規模に応じたパーラー舎など幅広い設計プランを提案する。
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