株式会社アクト 代表取締役 内海 洋氏(52歳)

株式会社アクト

お客様本意の情熱で実現
パーラー排水浄化システム

酪農大国十勝で「北海道産低品位石炭を活用したパーラー排水浄化システムの開発」に成功。農業施設メーカー(株)アクトの内海洋社長を軸とする産学官連携プロジェクトの道のりは、決して平たんではなかった。「すべてはお客様のために」という情熱から始まった研究開発の歩みを振り返ると、産学官連携に必要なあらゆる要素が見えてくる。 (2011年3月1日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

大学内に実証プラント、驚きの透明度を可能に

取材場所は帯広畜産大学。地域連携推進センターでの顔合わせもそこそこに「行きましょうか」と、同じ構内にある畜産フィールド科学センターへ案内された。ここに今回の主役である「北海道産低品位石炭を活用したパーラー排水浄化システム」の実証プラントがあるという。詳細は後で聞くとして、まずは「生乳が混入した排水を浄化する」という基本システムだけを頭に入れて実証現場を見ることにした。

中に入ると、見上げるほどに大きい水槽数基が二列に並んでいた。階段を上がり開口部からのぞきこんだ原水槽には、にごった液体が見える。「これは実際に約80~100頭の牛を搾乳する学内のミルキングパーラーから出る酪農排水です。少し白っぽいのは廃棄乳が混じっているから」と、アクトの内海社長が解説する。

浄化の要は、特殊セラミック槽と活性化石炭槽の連続処理にある。特殊セラミックが酪農排水中の乳脂肪分を微生物が食べやすい形に変え、次の活性化石炭槽で微生物が分解する。通常の石炭よりも多孔質な構造をしている低品位石炭を “すみか”とする微生物は排水の変化による影響を受けにくく、安定した働きで排水を浄化する。その後、凝集沈殿槽で汚泥を沈め、上澄みの水だけを放流するシステムだ。「いくつもの水槽を経て最後はこうなるんです」と内海社長がひしゃくですくった水を見て驚いた。先ほどのにごった排水が、一見すると飲み水と変わらないほどの透明度にまで浄化され、臭いもしない。「排水中の乳脂肪分は腐敗すると悪臭の原因になり、酪農家の目に見えない悩みでした。今はこの水をパーラーの床洗浄や家畜の飲み水に活用できないかと考えています」、内海社長のまなざしはすでに新たな目標に向かっていた。


排水の浄化度合い。左端が原水槽で、右端の放流槽に行くころにはほとんど透明に浄化されているのがわかる


帯広畜産大学の畜産フィールド科学センターにある実証プラント。「北海道で重要な低温下での稼動も検証ずみ。水温が5度でも浄化できます」(内海社長)



十勝1790戸から一日8,500キロリットルの酪農排水

プラントを見学後、地域連携推進センターに戻って産学官連携コーディネーターの田中一郎さん、藤倉雄司さんも交えてお話をうかがった。そもそも産学官連携プロジェクトとは、<あるニーズの実現>を目指す民間企業の相談から始まるケースがほとんどだ。今回も、農業施設メーカーとして酪農現場に精通する内海社長が掘り起こしたニーズが核となった。<廃棄乳を混入した酪農排水の浄化>である。

頭数規模が多い酪農業では毎日の搾乳作業に伴い、牛の乳房やミルクラインの洗浄などの酪農排水が大量に出る。資料によると十勝の酪農家1790戸から一日8,500キロリットルのパーラー排水が出ており、従来の地下浸透や希釈・拡散処理では到底追いつかない量に膨れ上がっている。しかも、乳房炎の牛から搾乳された廃棄乳は抗生物質などが含まれているため、現場では排水と分けて処理をする“二度手間”が余儀なくされている。

そこで立ち上がったのが、「すべてはお客様のために」を経営理念とするアクト内海社長である。「食をあずかる農業は高貴な仕事。酪農家の皆さんを応援するため、廃棄乳が混入しても処理可能なパーラー排水浄化システムができないものかと研究開発に乗り出しました」。


写真左から帯広畜産大学地域連携推進センターの産学官連携コーディネーター田中一郎さん、藤倉雄司さん



経験豊かなアドバイザーが支える産学官連携

ニーズをつかみ、浄化槽管理士などの国家資格も取得した内海社長だったが、当初の研究開発は手探りの自社開発から始まった。産業技術総合研究所関西センターと関係ができ浄化槽の試作段階まで進んだものの、いざ北海道で試運転をするとうまくいかない。協力団体が遠方であることの難しさを実感し、それ以上に開発資金の工面に内海社長は苦しんだ。牛舎やパーラーなど農業施設建設による売上の一部を研究費にあてる自社開発は「中小企業の力だけでは必ず限界がきます」。心配した周囲から「相談に行ってみては」と教えてもらった先が、帯広畜産大学の地域連携推進センターだった。

そこでHiNTを紹介された内海社長は平成17年に札幌のHiNTオフィスを訪問。産学官連携コーディネーターの太田英順さんに一連の話をしたところ、「すぐに研究目的に合う採択事業に申請しましょう」とアドバイスされ、共同研究への扉を開くことになる。
「太田さんがそのときに勧めてくださった申請事業が、経済産業省の地域資源活用型研究開発事業。酪農排水処理を地域資源とどう結びつけるのかという課題にも、“道産の活性化石炭を活用すれば適応できる”という太田さんの慧眼に我々は膝を打つ思いでした」。

活性化石炭の協力企業は、旧太平洋炭礦の釧路コールマインが100%出資したKCMエンジニアリングだ。こうした道内企業へのアンテナを持ち、申請ノウハウを熟知したアドバイザーの存在が産学官連携には欠かせない、まさにその実例だったと内海社長は振り返る。


アクトは農業施設専門のメーカー。生体工学を重視したフリーストール牛舎や搾乳規模に応じたパーラー舎など幅広い設計プランを提案する。



宿題を消化し万全の体制で三度目に採択

ところが、突破口を開いたかに見えた共同研究の申請も平成18年度、平成19年度と不採択が続いた。産学官連携の世界で三度目の採択は珍しくない。あらゆる角度から吟味されてなお強い説得力を持つ案件こそが前に進むことができるのだ。申請に際しては代表者によるプレゼンもある。「初回のときはすっかり緊張してしまって、当社の宣伝で終わってしまいました」と内海社長が自戒すれば、「ああいう場は経験を積まないと難しい。内海社長の熱意は十分伝わりました」と、藤倉コーディネーターが補足する。田中コーディネーターは、「“基礎研究が弱い”とか“市場調査が足りない”など、不採択の度に我々は宿題を持ち帰るような心持ち。HiNTの太田さんに叱咤激励していただくことで粘り強く挑戦し続けることができました」と話す。

経産省への申請を続ける一方で、帯広市のものづくり総合支援補助事業と北海道中小企業総合支援センターの研究開発補助事業にも申請したところ、いずれにも採択され、基礎研究を続けるうえで大いに役立ったという。こうして万全となった本件の申請は平成20年度に「三度目の正直」で採択され、2年間の研究が始まった。

藤倉コーディネーターによると、「役割分担としては産総研北海道センターさんが浄化能力の高い微生物の探索、KCMエンジニアリングさんは今回の研究に最適な石炭の供給、北海道立工業試験場さんは浄化槽全般に関するアドバイス、十勝農業協同組合連合会さんには市場調査に関する情報提供でお手伝いいただきました」。


「パーラー排水浄化システムで浄化された水を金魚の飼育や水草栽培、床洗浄に使っているお客様もいらっしゃいます」


周囲を巻き込む情熱が一番の成功要因

現在、アクトで製造販売されているパーラー排水浄化システムを導入している農家は15戸。中には環境問題に関心が強く、「このシステムでなければダメ」と支持する熊本や岩手の農家もいるという。実現不可能と思われた廃棄乳混入率20%の排水も浄化が可能。システムの小型化が進めば導入コストの低下にもつながり、道内一円に浸透していく日もそう遠くはないと内海社長は期待する。

産学官連携で得られた一番の収穫は何ですか?と質問すると、「ここにいるお二方や太田さんたちとお知り合いになれたこと」と即答した。「開発資金もなく、本業以外の案件に人材を割く余力もない中小企業にとって、頼れる相談相手となっていただける人脈を作れたこと自体が大きな財産。苦労した甲斐がありました」。

他方、田中コーディネーターは本件の一番の成功要因に「内海社長の情熱」を挙げた。「産学官の各自が役割を果たすことも重要ですが、そのまとめ役となる人物が経営を知り現場感覚を持つ企業さんでなければプロジェクト自体が前進しません。熱い志と柔軟なアイデアを持つ内海社長は、産学官連携の理想の人材。我々もつい“内海社長がやろうというのならやらなければ”という暗示にかかってしまう(笑)。これからも長いおつきあいが続きそうです」。田中さんの言葉通り、取材中に「まだやりたいことがいっぱいある」と何度も口にした内海社長。その情熱が次に生み出すものは、と期待せずにはいられない。


“各自がきっちり仕事をした最強のチーム”は、今後「カウコンフォート」の視点から耐久性のある新しい合成木材の製造に挑む。

株式会社アクト

  • 代表者/代表取締役 内海 洋
  • 従業員数/18名
  • 設立/1997年1月20日
  • 資本金/2,500万円
  • 事業内容/
    • 農業施設の専門メーカー
    • 一級建築士事務所
    • 不動産事務所
    • 特定建設業
    • 浄化槽保守点検業
    • 堆肥発酵装置
    • 消毒装置
    • HONDAソーラー代理店
    • 水力発電装置(ISO9001取得、ISO14001取得)

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