角川建設株式会社

実証試験の継続が生んだ自信作
酪農排水から生活排水への応用も

酪農のまち別海町で建設業を営む角川義捷さんは自身も20年間酪農に従事していた経歴の持ち主。牛乳が混入した排水処理対策に頭を抱える地元の役に立ちたいと、平成17年からプラント開発に取り組み、低コスト・高機能の洗浄排水処理プラント「大地」を完成させた。現在はその技術を人間の生活排水処理施設に応用する新たな試みも進んでいる。 (2012年3月15日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

20年の酪農経営で現場を熟知、仲間の声に立ち上がる

 中標津空港から車で小一時間。人口1万6,000人弱に対して乳牛がおよそ6倍の10万7,000頭いるという酪農のまち別海町にやってきた。訪問先は角川建設。酪農業のパーラー排水を浄化する自社開発プラント「大地」を販売する地元企業だ。企画開発者である同社代表取締役の角川義捷さんにお時間をいただいた。

 現在、牛舎やミルキングパーラーから出る排水は牛乳のほか糞やワラ、洗剤、抗生物質入りの廃棄乳などさまざまな異物が混入し水質汚染の原因となるため、農家には人工的な浄化処理が奨励されている。過去にはそのまま放流する"たれ流し"が主流だったが時代とともに改善が要求され、その一方で経済的な負担や処理能力に対する不安から処理施設の導入に二の足を踏む酪農家も少なくなかった。

 二十歳のときから約20年間酪農経営をしていた角川さんは、農協役員や町議を務めたこともある行動派。酪農現場を離れても仲間の声に耳を傾け、とうとう「まちの力になれるなら」と浄化排水処理プラントの開発を決意。平成17年からおよそ三期に渡って研究開発の道のりを歩んできた。


洗浄排水処理プラント「大地」は現在、地元の西春別を中心に約20戸の農家が導入。写真は別海町中西別・宇居牧場の工事記録より。地中に埋めこむプラントの型枠作業。


躯体のコンクリートが完成。


杉チップを活用した実証試験からスタート

 「どうやったら牛乳入りの排水がきれいになるのか、"いろは"の"い"もわからなかった」というスタートライン。"学ぶは真似ぶ"という格言もあるように、角川さんはすでに排水浄化プラントを導入している農家を訪ね、現場を見るところから行動を開始した。

 浄化の主役は微生物である。微生物の働きを高め、汚水中の有機物を効率よく発酵させることで最終的にプラントから直接放流できるレベルの透明な浄化水へと変えていく。この原理を踏まえつつ、いかに自社独自の技術を盛り込むかが研究開発の鍵となる。

 平成17年5月、別海町西春別の中野牧場の協力を得て、杉チップによる発酵を活用したプラントの実証試験が始まった。地中に埋め込まれたコンクリート製プラントの内部は幾つもの槽に分かれ、汚水は各槽を通りながら徐々に浄化されていく。中野牧場での約半年間にわたる実証試験の結果、一次発酵槽で塩素等の発酵阻害物質を除去することはできたが、二次発酵槽内の杉チップによる有機物分解は思うように進まず、排出された処理水は依然黒いままに終わった。「期待値には遠い結果でしたが、なにしろやってみないとわからない。次の課題が見えた貴重な試作一号でした」と角川さんは振り返る。


「道東の広大な大地をイメージして」プラントに「大地」と命名した角川さん。「実は孫の名前でもあるんだけどね(笑)」。


好気発酵を高める曝気法と固形物の分離に着目

 続く平成18年7月、洗浄排水処理プラントの開発は北海道中小企業総合支援センターの研究支援事業に採択された。「研究の足がかりとして一番最初に訪ねたのは釧路工業技術センターでしたが、その後地元の役場からHiNTさんを紹介していただきました。こういうプラント開発のようなおおがかりなことは一企業の力だけでは到底無理。補助事業の紹介や申請書類の書き方指導を含め、関係者の方々には本当にお世話になりました。事業採択の審査員だった北海道立工業試験場の方からも参考になりそうな前例をいくつか教えていただき、開発の視野を広げるきっかけになりました」。

 中標津町計根別の有限会社細谷設備や根釧農業試験場を訪れ、類似施設の視察研修を重ねた結果、角川さんはプラントの浄化方法を前述の杉チップの活用から好気性微生物による発酵法に転換。

好気性発酵の効率を高めるために空気を送り込む曝気(ばっき)方法を改善し、さらにマイクロバブル発生装置を導入して汚水浄化機能をパワーアップした。

 平成18年12月には中間報告としてプラントを公開、そこからまた開発は進み、曝気槽の中に微生物のすみかとなる浄化膜を設置(特許申請中)、「汚水処理の中で実は一番厄介な」固形物を嫌気発酵により液体肥料に変換する工程にも成功した。そして平成19年9月末をもって実証試験は終了。平成20年から待望の洗浄排水処理プラント「大地」(搾乳牛60〜100頭・乳成分1日30kg以内と100〜150頭・乳成分1日50kg以内の2タイプ、のちに搾乳牛150〜250頭・乳成分1日100kg以内が追加)の販売が始まった。



6槽に分かれて浄化処理を繰り返す「大地」。沈殿槽に貯まる固形物も最新型ではほとんど分解され、年1回の除去で問題ないという。

「大地」から生まれた液体肥料「ミルクパワー」

 「『大地』の売りは好気発酵と嫌気発酵を繰り返し、それぞれ違う菌の働きを促進するところ。好気発酵槽の中では独自に開発した浄化膜による接触曝気で微生物が急速かつ安定した状態で増殖するため、今までのプラントでは実現できなかった高いレベルの汚水処理が可能になりました。高機能で面倒なメンテナンスも不要ですからランニングコストも低く抑えられる。現実的な使いやすさをとことん追求した排水処理プラントです」。

 「大地」完成までの3年間を第一期とするならば、平成22年4月から新たに取り組んだ建設業等経営革新事業は角川さんにとってプラント研究開発の第二期にあたる。道の中小建設業者等を対象に新しい事業展開を支援する同事業で「廃棄牛乳を利用した家庭用液体肥料の生産・販売及び排水処理プラントの高度化」が採択されたのである。

 このプロジェクトは「大地」から生まれた、いわば"副産物的なアイデア"を形にするものだった。原材料となる廃棄牛乳に汚水浄化とほぼ同じ処理を施し熟成させることで、牛乳本来の栄養成分を蓄えたままの透明な液体肥料に変えていく。作物の育成に必要なミネラルやチッ素、リン、カリウムも豊富、その名も「ミルクパワー」と名付けた液体肥料が出来上がった。

わずか1年で完成というスピード開発は「混入する牛乳の濃度が高くても処理できる『大地』の機能があればこそ」と話す角川さん。生産体制の確立と販路の開拓は今後の課題だが、地道な研究開発がもたらした嬉しい成果の試供品を前に「ぜひ使ってみて。元気な花が咲きますよ」と頬を緩ませた。


「大地」の仕組みを活用した「ミルクパワー」の生産工程。10〜20倍に希釈して使う。560cc・200円


生活排水の浄化で将来はアジア展開も視野に

 「大地」完成までの第一期、そこから生まれた「ミルクパワー」の第二期を経た現在、角川さんの排水処理プラント開発は第三期のフェーズに突入している。平成23年5月、地元の共栄土木運輸株式会社と連携して国土交通省による「建設企業の連携によるフロンティア事業」に参加。今度は「大地」の機能を大幅に向上させ、し尿を含めた人間の生活排水を処理する浄化プラントの開発・全国販売に挑戦するのだという。

「郊外にある外食産業や工場、企業を対象に利用人数70人規模の処理施設から始めて、将来的には100人、500人規模も目指したい。本格的な事業化に向けてHiNTさんはもちろん、北海道開発局さんや札幌のイーエス総合研究所さんなどたくさんの方のお力添えをいただいています」。

 この事業が軌道に乗れば、政府開発援助の一環としてアジア展開への期待も高まっている。「当社の担当者も汚水処理に関するさらなる知識や技術を習得している真っ最中です」。ふるさとのため、社会のために——。粘り強い研究データの蓄積に定評のある角川建設から生まれた技術が海を渡る日も、そう遠くないのかもしれない。 。



角川建設では早くから太陽光発電システムの設置・導入にも取り組んでいる。3月末には西春別に40基近いモジュールが並ぶマンモス級の自社ソーラー発電システムが完成予定。

角川建設株式会社

  • 代表者/代表取締役 角川 義捷
  • 従業員数/20名
  • 設立/1990年3月31日
  • 資本金/1,000万円
  • 事業内容/
    • 建設業、商品開発、産廃処理施設、農業施設
    • 土木工事、リフォーム工事、太陽光発電工事

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