株式会社プラウシップ

中小企業の活路を産学官に託す
「北のブランド」づくりを推進

広大な北海道には、専門特化した技術や豊富な現場経験を有する中小企業が各地に点在している。しかし、中小企業が単独で自社製品をつくることは現実的には難しく、北海道のものづくりのジレンマがそこにある。株式会社プラウシップでは、そうした中小企業の可能性に着目し、中小企業同士の連携と産学官を軸にしたものづくりを推進。「北のブランドものづくり工房」と銘打った思いを、同社代表取締役千葉武雄さんにうかがった。 (2007年5月15日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

支援団体には北海道の“知”が集結

株式会社プラウシップは、役員構成からすでに特徴が出ている。

千葉武雄さんが経営する株式会社白石ゴム製作所を筆頭に、コンピュータソフト開発会社や三次元設計を専門とする会社、中小企業向けISOを提案するオフィスなど業務内容の異なる企業のトップが同社の取締役に名を連ねている。

この構成企業の多様性こそプラウシップの強み。中小企業1社では実現できないものづくりへの可能性を秘めている。同社を支援する協力団体には北海道大学や北海道立工業試験場、産業技術総合研究所北海道センターなど北海道を代表する“知”が集結。「北のブランド」確立への体制を整えている。

「北海道の不景気がこのまま続けば、致命的な打撃を受けるのは中小企業です。自衛のため、北海道のものづくりを活性化させるためには、業種を超えた企業同士の連携、さらには研究機関の知恵と行政の理解を得たものづくりが必要不可欠。プラウシップの存在意義はそこにあります」と、千葉さんは設立の動機を語る。

プラウシップでは自社で企画を立案、及び「こんな製品はできないだろうか」という問い合わせにも対応する。

それらのアイデアを議題に運営委員会で検討した後は、前述の協力団体に全国を視野に入れた関連技術や先進技術を問い合わせる。先行特許の有無次第で進める方向性を再度検討し、適切なライセンシングや技術支援を専門機関に依頼。あるいは企画実現に必要な技術やノウハウを持つ中小企業を選定するなど、どの案件にも対応できる“コーディネーター”としての手腕も求められている。

そのため、北海道中小企業家同友会産学官連携研究会に所属するなど日頃からの人脈づくり・情報交換は欠かせないと千葉さんはいう。「特に札幌の中心部にあるHiNTさんには、打ち合わせや勉強会、例会など研究開発にいたるさまざまな過程でいつもお世話になっています。本来、民間の中小企業が自力では知りえないような最新かつハイレベルの情報を発信してくれる機関として頼りにしております」と全幅の信頼を寄せている。


このままでは先細りになる、不安な日々

千葉さんが産学官の道を歩み始めるには、きっかけとなる製品開発があった。

もともとゴム製品の製造・加工・工事を手がける白石ゴム製作所を経営するかたわら、ラジコンで動かす農薬散布ボート『ラジボー』など異業種企業間での製品開発の実績はもっていた。受注を待っているだけでは、経営が先細りになるのは目に見えている。なんとかしなければという思いは日増しに強くなっていったという。

そして2000年、札幌市から思いもかけないオファーがきた。産学官クラスター事業プロジェクトとして着氷防止ゴムマットが作れないかという依頼だった。

北海道の冬は路面だけでなく屋外の階段や玄関先も凍って“ツルツル”になり、若者でさえ歩行が困難になる。ましてや、足腰が弱った高齢者や杖の愛用者には—。

そこで札幌市が北海道大学などの研究機関と共に「氷が着かないゴムマット」の実用化に乗り出し、ゴムのスペシャリストである白石ゴム製作所に技術協力を依頼してきたのだ。


「学」から学んだものづくりの基本

このときの産学官プロジェクトへの参画が、千葉さんには「人生の転機」となった。 「産学官という言葉の重みに初めの頃は緊張もしましたが、先生方と出会えたことで生まれ変わったようなもの。それだけ刺激的な経験でした」。

できない理由よりも、できる理由を考えろ。行き詰まったときは原点に立ち返れば必ずヒントが見つかる。そしてなにより、絶対にあきらめてはいけない—。

ものづくりの根本を辛抱強く訴える担当教授の言葉は、千葉さんの中でその後のものづくりの大きな柱となった。そうして、マット上の氷を足で踏んだだけで氷が割れて払い落とすことができる『エアーバック式着氷防止エアーマット』が完成。2001年度の北海道新商品開発奨励賞を受賞した。この実績が弾みとなり、千葉さんの周囲には徐々に産学官の有志が集まり始め、プラウシップ設立の先導役として歩き始めることとなった。

着氷防止エアーマット 千葉さんの「運命を変えた」着氷防止エアーマット。介護保険補助制度摘要品にも認定されている。


ご当地料理の将来性を秘めた野菜乾燥機

2004年には、プラウシップの名で申請した事業が北大リサーチ&ビジネスパーク構想推進協議会主催のインキュベーションモデルに採択された(2005年1月から株式会社化)。

採択された事業内容は野菜乾燥機の開発・実用化。本来なら廃棄処分になる規格外の野菜を乾燥、粉砕することで麺類などの二次加工に無駄なく使うことができる。先に自家製乾燥機を活用し、「じゃがいもパスタ」を商品化していた大滝村の農家のアイデアをもとに、より本格的な機能を備える製品化に着手した。

収穫後の農閑期を有効に使えるうえに、乾燥された野菜の体積は約5分の1になるため輸送費の軽量・低コスト化が実現。保存性も高いという数々の利点から、北海道の農家に新たなビジネスチャンスをもたらす製品として注目を集めている。

「この野菜乾燥機を活用して地元の野菜を使ったご当地料理を作ることも考えられますよね。今後も工夫を重ね、農家さんが購入しやすい価格帯の製品化を目指します」。

野菜乾燥機『ドライアップ』 野菜乾燥機『ドライアップ』。「プラウシップは小ロットで対応できる商品開発で本州との差別化を図ります。HiNTからいただくアドバイスやセミナーを活用しながら、今後もビジネスチャンスを掘り下げていきたいです」(千葉さん)


目標はU・Iターン組にも活躍の場を提供

野菜乾燥機の他にも、『雪の結晶型紙せっけん ユキハナ物語』の製品化や電気式卓上ジンギスカン鍋セットの開発に関わるなど、多彩に活動範囲を広げるプラウシップ。 「『ユキハナ物語』のときは大学ベンチャー企業のGEL-Designさんと共同開発させていただきました。自分の息子のような年齢の社長さんと一緒に仕事ができるなんて最高です。プラウシップが最終目標としているのは、こうした製品開発を通して20代、30代の技術者達が北海道で活躍できる雇用の場を生みだしていくこと。U・Iターンを志望する若者達にも、『北海道へ帰っておいで。やりがいのある仕事がたくさんあるから』と言える環境を私達がつくらなければなりません。行政をはじめ大学・研究機関、そして民間企業がこぞって支援をした成果が実り、雇用が生まれ、若者がいきいきと働けるようになる。それが北海道経済の発展につながると信じております」。

北のものづくりを絶やさぬために立ち上がった“父親”達。それがプラウシップの真の姿なのかもしれない。

2007年の夏、プラウシップに嬉しい出来事が続いた。7月には社員第一号、37歳の男性が入社し、8月にはかねて財団法人北海道中小企業総合支援センターに応募していた新案件の助成が決定した。この喜びを早速、新入社員と分かち合いながら、「私達“おっちゃん”が退いた後は、彼の時代です」と語る千葉さんのまなざしは、強くあたたかい輝きを放っていた。

ジェルイメージ 2005年度のさっぽろ雪祭りで試験販売された『ユキハナ物語』。雪の結晶をテーマにした絵本の巻末に結晶型紙せっけんを同封。わずか数日で完売となった。

株式会社プラウシップ

  • 〒003-0834 札幌市白石区北郷4条4丁目20-17
  • TEL・011-875-5191 FAX・011-875-6343
  • http://www.plowship.com/
  • 代表者/代表取締役 千葉 武雄
  • 従業員数/1名
  • 設立/2005年1月4日
  • 資本金/1,000 万円
  • 経営理念
    1. 北海道の中小企業の連携により、単独では成し得ない新たなものづくりに道産子が受け継ぐ開拓精神(プラウシップ)で挑戦し、主役である連携企業の発展を演出する。
    2. 北海道に蓄積される、中小企業の現場の経験や技術と、大学や研究機関の学術的知見や技術を融合し、行政の支持のもと、世界に通用する「北のブランド」の確立に貢献する。
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