北海道ワイン株式会社

北海道産葡萄を種皮まで生かす
新分野に鍬を入れるワインメーカー

厳寒の地、北海道では不可能と言われたワインづくりにすべてを懸けて約30年。土壌改良や豪雪との闘い、ワインブームの後には大量の道産葡萄を買い取り経済的な打撃を被ったこともあった。「北海道に必要な会社になる」という北海道ワイン株式会社創業からの想いが、今新たに産学官の分野で結実しようとしている。『道産ワイン製造残さを用いたメタボリック症候群予防食品の開発』プロジェクトを担当するお二人のもとを訪ねた。 (2008年1月1日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

100%道産ワインを使用、日本屈指のワインメーカーに

北海道ワイン株式会社が世に送り出すのは、「純国産ワイン」。浦臼町鶴沼に有する自社農園や道内約350カ所の契約農家を中心にした道産葡萄にこだわり、生粋の国産ワインをつくり続けている。製法は“ドイツの恩人”、ワイン技師グスタフ・グリュン氏が伝えた「非加熱生処理」を守りぬく。混ぜない、変えない、あきらめない。北の大地に“愚直”を貫き、幾多の苦境を乗り越えてきた北海道ワインは、いまや日本屈指のワインメーカーに成長した。

さわやかな飲み口と手頃な価格で人気の「おたるワイン」シリーズからこだわりの高品質を追求した限定醸造の「鶴沼シリーズ」まで商品ラインナップは実に多彩。「ワイン用や生食用を問わず北海道の葡萄農家を安定して買い支えたい」という同社の姿勢が、葡萄に応じたワインづくりを発展させていった

こんなエピソードがある。1998年にピークを迎えた狂騒的な赤ワインブームが去った後、大量の道産葡萄が行き場を失った。取引先以外の農家までもが持ち込む葡萄を北海道ワインは黙って買い取った。「ワインづくりは農業である」、北海道の農家に寄り添う創業者・嶌村彰禧氏の指示だった。北海道ワインと農家との結びつきは揺るぎのないものになっていった。

加熱処理を行わない生ワイン製法により葡萄の風味が生きている純国産ワイン
加熱処理を行わない生ワイン製法により葡萄の風味が生きている純国産ワイン。道産葡萄へのこだわりはこれからも続く。


葡萄を使ったワイン以外の商品化を模索

葡萄の出来は収穫時期の秋の天候ですべてが決まる。「春夏に晴天が続いても収穫直前の一週間で雨が降ってしまうとその年の葡萄は水っぽい味になり、ワインとしてはランクが下がってしまうのです」と同社の嶌村公宏副社長はワインづくりの難しさを語る。

天候以外にもさまざまな不測の事態に備えて、これからは葡萄を使った“ワイン以外の商品”が必要になる。現在、北海道では年間8,000トンの葡萄が生産され、そのうち2,000〜2,500トンが北海道ワインに納入される。ワインづくりの工程で出る搾りかす(残さ)は、なんと400〜500トン。通常は堆肥として活用する種皮に新たな価値を見い出す模索の日々が始まった。

道内外の食品加工業者からいくつか商品化の打診はあった。だがいずれも漬物の色づけや種から抽出したオイルなど、葡萄に含有される抗酸化成分ポリフェノールを謳うイメージ先行型のものばかり。「このままでは副材料として葡萄の種皮を提供するだけで終わってしまう。自分たちが主体となって進めていかなければ。そう思っていたところにHiNTさんから声をかけていただきまして、今回のプロジェクトが始まりました」。


話題のメタボに光を当てる有効性分に着目

異業種企業同士の橋渡しをするHiNTは北海道ワインに、パートナー企業として北海道大学発のベンチャー企業・株式会社オンコレックスを紹介した。農学博士・医学博士を研究スタッフに抱えるオンコレックスでは葡萄の種皮にメタボリック症候群予防に関わる核内受容体PPAR(ピーパー)活性化成分が含まれることを発見。北海道ワインとの共同研究が進めば、種皮を活用した商品化も夢ではない。

ワインといえばポリフェノールという従来の枠を飛び出す話題性や健康問題への貢献度、そしてなによりお互いが誠実さを感じとった好印象と、どこをとっても申し分のない“縁談”だったが、解決すべき問題がひとつ残っていた。
「土から生まれた葡萄の恵みをすべて土に還す堆肥のときと同じように、新商品をつくってなおかつ“残さ”を出さないことが当社の譲れないミッションでした。そこでHiNTさんがさらに頼もしいパートナーと引き合わせてくれたのです」と同社営農部の齋藤浩司次長は振り返る。

スーパープロフェッショナル 経営面積447haの鶴沼農場。国内に1台しかないハーベスター(自動収穫機)が活躍する。


葡萄の種皮で育つブランドポークに思いを馳せて

HiNTの仲介で新たに加わったメンバーは酪農学園大学北海道立食品加工研究センター。両者によると、葡萄の種皮を使った新商品をつくる際に発生する残さを飼料にして豚や鶏に与えると健康体が維持され、抗生物質等を不要とする育成が可能になるという。「この豚の飼養に成功すれば、将来はブランドポークとして後志地方の特産品になるかもしれない。ワインと一緒に食べてもらうなどイメージがどんどん広がっていきます」と嶌村副社長も熱い期待を寄せている。

こうした志を同じくするチームでも、各分野のスペシャリストが集えば自然と専門用語が飛び交うもの。葡萄の発酵やPPAR活性、互いにとって未知の世界を“通訳してくれる”役まわりとして株式会社札幌バイオ工房が最後に加わり、プロジェクトチームが結成された。

HiNTに集合したプロジェクトメンバー
HiNTに集合したプロジェクトメンバー。「この経験が社員の刺激になり、会社の資産になります」と嶌村副社長(写真右端)


走り出したプロジェクトチーム、結束は堅く

2007年の春、立ち上げと同時にプロジェクトチームはHiNTの勧めを受けて地域資源活用型研究開発事業に応募した。ところが初めて手がけた応募書類が難解すぎて、結果は残念ながら不採択に。

「今振り返るとあの応募書類は確かに難しかった(笑)。私どもも未消化な部分があったと反省しています。ただ公的な補助金を受けられなくても、自分たちで事業化を続けようという意欲はみな一緒でした。それを聞きつけたHiNTさんが二次募集の情報を教えてくれて、前回の反省を生かした応募書類で無事採択されたというわけです」。

こうして『道産ワイン製造残さを用いたメタボリック症候群予防食品の開発』プロジェクトチームは、植物性乳酸菌飲料の試作品づくりに乗り出した。決して平坦ではない歩みはワインづくりと重なることが多いだろう。だが不可能と言われた北のワインづくりを実現した北海道ワインの情熱が、確実に道を切り拓いていくと信じたい。

北海道ワイン株式会社

  • 代表者/代表取締役社長 嶌村 彰禧
  • 従業員数/96名
  • 設立/1974年1月
  • 資本金/3億4689万円
  • 事業内容/果実酒類・ビール及び発泡酒類の製造販売
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