留萌有機肥料株式会社

ニシンを稲作の天然有機肥料に
選ばれる道産米づくりに一役

海の恵みを大地に返す。北海道西北部の港町、留萌市から産出される年間約3千トンのニシンの加工残さからアミノ酸を豊富に含む天然有機肥料「スーパーアミノ10」が誕生した。その肥料を与えられて育った道産米はふっくらと大きく実り、旨味も豊か。「アミノサン米」の名で商標登録が認められ、普及団体も結成された。おいしさからさらなる個性が求められる道産米競争時代に一石を投じる期待の産学官モデルを紹介する。 (2008年6月1日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

水産加工のまちが抱えるニシンの加工残さ問題

2008年に開港70年を迎える人口約2万7千人の留萌市。基幹産業は水産加工。輸入されるニシンは年間約1万5千トンにものぼり、昭和の時代が終わるころにはカズノコや身欠きニシンを除いた3千トン近くの加工残さの処理が重い課題となってのしかかっていた。「環境への配慮が行き届かなかった時代には街から離れた山に穴を掘って廃棄していました。市内の加工業者がこぞって捨てるものだから土や川を汚してしまう。そのままではいけないと対策を講じる役割を任ぜられたのが当時留萌支庁の職員だった私です」と留萌有機肥料株式会社の松重淑郎社長は起業のいきさつを振り返る。

長年、行政の立場から農業を専門としてきた松重さんだったが資源の再利用や製品開発に関しては門外漢。真っ先に知人であり日本を代表する農業研究者である故・相馬暁氏のもとを訪れたという。そのときに授けられたのが北海道農業試験場(現北海道農業研究センター)万田博士(現北里大学教授)の「ニシンを発酵させてたい肥化する」というアイデア。同じく水産加工を基幹産業とするノルウェーでの魚加工の残さから飼料をつくる先例にも学び、徐々に方向性を定めていった。

留萌有機肥料(株)本社(札幌市豊平区)内に「北海道アミノサン普及会」事務局も併設。連絡先も兼用
留萌有機肥料(株)本社(札幌市豊平区)内に「北海道アミノサン普及会」事務局も併設。連絡先も兼用


有機酸を注入し、じんわり40度の完全発酵

大役を負った松重さんは周囲の協力に支えられながら1989年に留萌有機肥料を設立。留萌市街から6キロ離れた工場で4年の歳月をかけ、ニシンの匂いも形も残さない天然有機肥料を完成させた。万田博士の指導を得て構築した「無公害型」の製造方法は以下のとおり。

港からは日々新鮮なニシン原料が送られてくる。腐敗を防ぐため有機酸を混入する。均一に混ざるよう事前に加工残さを細かく砕くひと手間も怠らない。このあと発酵槽に入れた材料を40度前後でじんわりと約10時間かけて加熱することで発酵を進め、アミノ酸化を促進する。「ここでのポイントは発酵槽内の芯棒をゆっくりと動かしてかくはんすること」と松重社長。内部の温度を均一にし、空気に触れさせない嫌気性発酵を進めるためにも大切な作業だという。

発酵後は消化されなかった骨や皮の沈殿物とアミノ酸化したエキス、表面の油膜の三層に分離する。この真ん中のエキス層が天然有機肥料「スーパーアミノ10」となり、1992年から道内での販売が始まった。

商品名「スーパーアミノ10」は天然肥料では珍しいアミノ酸1割(=10)という高含有をアピールしたもの。加熱やかくはんなど独自の製造技術を開発し、特許も取得した
商品名「スーパーアミノ10」は天然肥料では珍しいアミノ酸1割(=10)という高含有をアピールしたもの。加熱やかくはんなど独自の製造技術を開発した


アミノ酸分析に北海道大学との共同研究が実現

ようやく完成した「スーパーアミノ10」を米づくりに生かせないものか。留萌有機肥料を支援する道立農業試験場OB及び農業改良普及員OBたちの口コミも広まり、雨竜郡秩父別町と妹背牛町の米農家が試験栽培に名乗りを上げた。

どの時期にどれくらいの量を散布すればいいのか、メーカーにとっても初めての試み。農家との二人三脚で進められた手探りの収穫には嬉しい評価が待っていた。「根の張りが良くなった」「粒が大きく育つ」「炊きあがりの旨味もある」。手応えをつかんだ。

だが胸を張って市場に出すには収穫した米の品質の専門的な分析・評価が必要となる。次のステップを模索する松重社長たちに手を差し伸べたのが、数々の産学官マッチングに成功するHiNTだった。相談をもちかけられるとすぐにアミノ酸分析を専門とする北海道大学理学部を紹介し、共同研究が実現。「スーパーアミノ10」未使用の通常米と比較し、米の中に旨味のもととなるグルタミン酸をはじめ17種類ものアミノ酸がより多く含まれているという貴重なデータが発表された。「北海道大学さんとのご縁は私どもにとってもうひとつの嬉しい収穫。HiNTさんのご尽力のおかげです」と松重社長はいう。

現在、「スーパーアミノ10」の使用方法や圃場管理に関する指導は「北海道アミノサン米普及会」が行っている
現在、「スーパーアミノ10」の使用方法や圃場管理に関する指導は「北海道アミノサン米普及会」が行っている


HiNTの仲介が実り商標登録「アミノサン米」を取得

平成の時代に入ってから「ほしのゆめ」「ななつぼし」などおいしい銘柄米が普及し追い風が吹いている道産米だが、消費者の要求はつねに高い。同じ銘柄米のなかでもさらに“選ばれる個性”が作り手に求められている。こうした課題を前に、「スーパーアミノ10」で育つ道産米はアミノ酸総量が15〜20%増え、ひと粒の重量も5%アップと聞けば、周囲からの期待も自ずと高まるというもの。2006年には留萌有機肥料と普及指導員OBとで「北海道アミノサン米普及会」を結成し、比布町農協、秩父別町稲作経営研究会の協力のもと本格的な試験栽培も始まった。

さらに弾みとなったのは同年7月に「アミノサン米」の商標登録(第4967048号)が認められたこと。HiNTを介し、中小企業支援の相談窓口となる(独)中小企業基盤整備機構北海道支部という頼もしい助っ人を得た松重社長は複雑な商標登録手続きをサポートしてもらい、唯一無二の吉報を手にすることができたという。

「アミノ酸と米、普通名詞をつなげた“アミノサン米”で商標登録がとれるとは夢のよう。お骨折りいただいた中小機構さん、HiNTさんには頭が下がる思いです」(松重社長談)
「アミノ酸と米、普通名詞をつなげた“アミノサン米”で商標登録がとれるとは夢のよう。お骨折りいただいた中小機構さん、HiNTさんには頭が下がる思いです」(松重社長談)



道産米期待の新星でHiNT出色の売上げを記録

2008年現在、「アミノサン米」の栽培は秩父別町、妹背牛町、蘭越町、岩見沢市、仁木町の道内5カ所にて「ほしのゆめ」「ななつぼし」「きらら397」の3品種で展開されている。2007年に収穫された新米は北海道中央食糧株式会社で販売され、1万3千俵を売上げた。実用化された新製品の売上げが億単位という実績は「数あるマッチングモデルのなかでも出色の成果」(HiNT談)。日本の食糧基地・北海道ならではの産学官ビジネスモデルとして今後の大きな指針となるだろう。

北海道アミノサン米普及会の水元秀彰会長が「商標登録にふさわしい品質管理に力を注いでいます。農家さんと手を携えながらいっそうの普及に務めたい」と語れば、松重社長も深くうなずく。やっぱりおいしいんですか、アミノサン米?と尋ねると「そりゃあもう全然違うさ。旨味が違う」とその場にいた全員から自信の一言。道産米期待の新星を口にする今年の秋が楽しみだ。

留萌有機肥料株式会社

  • 〒062-0052 札幌市豊平区月寒東2条3丁目1-3ほくとビル2F
  • TEL・011-853-8538 FAX・011-853-8589
  • 工場/留萌市大字留萌村エトウエンベツ1453番地19
  • 代表者/代表取締役 松重 淑郎
  • 従業員数/本社3名 工場5名
  • 設立/1989年4月
  • 資本金/1,700万円
  • 事業内容/産業廃棄物処分業(許可 第0120028720号)、肥料の製造・販売、その他付帯する一切の業務
  • 主要商品/「スーパーアミノ10」(特殊肥料 北海道第5500号)
写真:農家の様子 写真:稲穂のアップ

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