株式会社ウェザーコック

地形データに命を吹き込む
立体模型の自動製作を実現

教育や研究、博物館展示に活用される模型地図。現実の地形をどれだけ精確に再現できるか。長年格闘し続けてきた製作者にとって夢のような製作システムが誕生した。産学官の知恵が結集した「立体図面」は、コンピュータに地形データを入力すれば立体模型が自動製作されるという画期的な新システム。国際測地学・地球物理学連合(IUGG)2003年総会の展示では世界各国の専門家たちがその精度の高さに目を見張った。 (2008年9月1日)

※本ページの内容は取材当時のものです。

製作現場に変革をもたらした「立体図面」

 「立体図面」が完成する以前の模型地図の製作現場は、手作業が中心だった。製作時間の大半は道路の傾斜や川の高低など実際の地形データと模型の誤差を検証する確認作業に費やされた。模型地図を事業の柱とする株式会社ウェザーコックでは製作現場の効率化を目指して、1991年に自動切削装置を自社開発。2000年ごろから北海道立工業試験場(道工試)とともにさらなる活用方法を探り、描画装置の開発に乗り出した。

 2002年には経済産業省の創造技術研究開発費補助金を受け、道工試、北海道大学大学院理学部、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究が始まった。その後1年をかけて、入力データをもとに自動切削装置が模型地図の原型を削り出し、さらにその原型に等高線といった記号も直接印刷できる「立体図面」が完成。製作期間も大幅に短縮され、高い精度を誇る理想の立体模型製作システムが誕生した。

手作業時代は表面加工の磨きで製作者の指はぼろぼろに。「立体図面」以降は徹夜作業もなくなった
手作業時代は表面加工の磨きで製作者の指はぼろぼろに。「立体図面」以降は徹夜作業もなくなった


HiNTメンバーの助力で初の国際学会ブース出展も大成功

「立体図面」の活用の場は北大、産総研とともに模索した。最大の特徴は写真や平面地図、CGでは伝えられない細部までもがひとめでわかる豊かな表現力にある。傾斜、勾配がリアルに再現できる利点からハザードマップ(防災地図)や大規模な土木建築現場でのニーズも見込んでいる。

 2003年6月には「立体図面」の完成度を世に問うため「国際測地学・地球物理学連合」の展示ブースに出展した。
ウェザーコックにとって初めての国際学会展示。チャンスを提供したのは当時HiNT立ち上げの構想を練っていた産総研だった。地球科学を専門とする太田英順コーディネーターと中川充総括主幹の全面的なサポートを受けて迎えた展示当日は、世界各国の専門家たちが口々に日本の技術力を高く評価したという。その後も同社は精力的に学会展示に参加し、2007年には「火山都市国際会議島原大会」にも出展。国内外で着々と認知度を高めている。

実寸の10分の1模型をスキャンし大型の造形物をつくるデジタル三次元コピーの技術も確立。
実寸の10分の1模型をスキャンし大型の造形物をつくるデジタル三次元コピーの技術も確立。シマフクロウの翼も反転データを使えば両翼の出来上がり。


産学官の敷居は低く、北海道への想いは熱く

 ウェザーコックと産学官の歩みは1977年の創立までさかのぼる。もとが北海道教育大学で美術を学んだ山本社長を中心とするベンチャー企業。道工試との人脈も早くから築いてきた。「"産学官連携"という言葉がまだ定着していない時代にその有効性を自分たちで実感することができました。産学官のタッグで底冷えのする北海道経済を盛り上げたいという想いは人一倍強かったと思います」。
こう語る同社の山本専務は現在、北海道中小企業家同友会産学官連携研究会の副代表と広報を兼務する。

 "産学官"にありがちな敷居の高さを感じさせない北海道の活動は全国でも珍しいと指摘する。「立場を超えて参加者全員がフラットな関係でいられるのはおおらかな道産子気質もあるでしょうが、みなさんが北海道経済の行く末に抱いている深刻な危機感のあらわれでもあります。いまや民間の一企業ができる技術開発は限界に達しています。大学や研究所が持つ科学技術に新たな可能性を見い出し、北海道全体が豊かになる道をこれからも探り続けます」。

先行投資に応えるスタッフの意欲に感謝

ウェザーコック躍進の背景には、経営陣による先行投資とそれに応えるスタッフとの信頼関係が息づいている。製作現場のIT化に着手するのも早く、パソコン一人一台体制が整ったのは1999年のこと。翌2000年には社屋も拡張し、オフィス兼ファクトリーの機能を備えた職場環境を万全にした。当時道内企業の間では社内にある数台のパソコンを全員が共有していた時代に、ウェザーコックの社員は各自メールアドレスを保有。本州のクライアントとのやりとりもスムーズになり、顧客開拓におおいに役立ったという。

同社の業務内容は地図模型に限らず、建築模型、造形物、レプリカ、科学実験装置と多岐にわたる。スタッフは恵まれた環境のなかで自発的に勉強会を開き、製作技術を磨いていった。「我々はスタッフから意欲をもらって進んできたようなもの。前向きな社員たちに心から感謝しています」と山本社長はいう。

カラクリ時計もお手の物。「お客様の希望を形にするのが当社の使命です」(山本社長)
カラクリ時計もお手の物。「お客様の希望を形にするのが当社の使命です」(山本社長)



写真の景色がそのまま立体に「空中写真シート貼模型」

2003年の「立体図面」から産学官の技術開発はさらに進み、現在は「空中写真シート貼模型」も同社の主力商品に加わった。航空写真や衛星写真をデジタルデータで切削成形した立体模型にそのまま貼り付けた、別名「写真貼り模型」。写真画像の精細な美しさを保つ立体模型が出来た。

「HiNTさんや北大の先生がたに出会えたおかげで、造形デザインを極めようとする当社の社会的な価値を自覚することができました。専門性の高い"知のシャワー"を浴びているうちにもっと知りたいという欲も自然とわいてくる。まさに現代を生き抜くヒントを与えてくれる貴重な存在、それがHiNTさんです」。
ウェザーコックの社名は「時代の風を読みとる」風見鶏に由来する。厳しい状況が続く北海道経済の向かい風にも臆さず、毅然と明日を見つめる姿が頼もしい。

衛星写真を使った都市部の「衛星写真シート貼模型」。飛び出す写真さながらの迫力にひきこまれる。
衛星写真を使った都市部の「衛星写真シート貼模型」。飛び出す写真さながらの迫力にひきこまれる。

株式会社ウェザーコック

  • 代表者/代表取締役 山本 真裕
  • 従業員数/9名 
  • 設立/1984年5月
  • 資本金/1,000万円
  • 事業内容/造形デザインコンサルティング、博物館展示・展示模型等の企画・デザイン・製作、科学のアウトリーチツールの開発・製作
  • 特許/立体印刷装置及び立体印刷方法 登録番号:特許第3734493号
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