十勝の大地が育んだ酵母でパンつくり

セミナーの日時 2010年5月25日
セミナーのタイトル 十勝の大地が育んだ酵母でパンつくり
講演者 小田有二(オダ ユウジ)教授(帯広畜産大学 食品科学研究部門)

セミナーの紹介 日本で使用されているパン用小麦の大部分は輸入されていますが、国産原料でつくったパンに対する人気には根強いものがあります。そこで、わが国最大の小麦産地である北海道では、最近、製パン特性を大幅に改善した小麦品種が続々と開発され、その生産量も増加しています。パン製造において普通に使用される酵母はイーストメーカー保有の菌株を培養した菌体ですが、著者らの研究グループでは使用する主要原料である小麦と酵母を地元北海道産にした地域特産のパンをつくろうと計画しました。そして、酵母については北海道の自然界から探索し、エゾヤマザクラのサクランボからパン生地を膨張させる能力に優れた酵母サッカロミセス・セレヴィシエ AK46を見出しました1)。この「サクランボ酵母」は通常のパン酵母とは異なってショ糖発酵性遺伝子の組成が単純という野生種に近い性質を有しており、DNAを解析することによって容易に判別することができます2)。
「サクランボ酵母」は様々な製パン法に適用可能ですが、最大の特徴は多くの製パンメーカーで採用されている中種法に好適という点です。この中種法では、まず小麦粉、水、酵母で練り上げた中種生地を30℃前後で4時間程度発酵させ、これに残りの原料を加え混捏した生地をさらに発酵して焼成します。良質のパンをつくるには、糖を添加しない中種生地を十分に発酵させる必要がありますが、自然界から分離される酵母菌株の多くはこの性質が不十分なのです。これに対して、「サクランボ酵母」は、中種生地を通常のパン酵母と同様に十分膨張させることができるため、下の写真のように通常のパン酵母と同様のふっくらしたパンをつくることができます。これら二つのパンを比較すると、「サクランボ酵母」でつくったパンは表面の焼色がやや薄く、官能検査でしっとり感が優れているという評価を受けています。

「サクランボ酵母」は「とかち野酵母」という名称で日本甜菜製糖株式会社から販売されるようになり、北海道産小麦との組み合わせによって様々な商品へと応用されています。

1)特願2008-238360; 2)Oda et al. Food Sci. Technol. Res.16(1), 45-50, 2010.

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