北海道の産学官連携の要になる人々を紹介します
平成24年2月11日、センターの実績にまた新しい商品が加わった。原料も酵母も製造もすべて十勝産のリキュール「ビートのこころあわせ」の発売である。
十勝といえば池田町のワインが有名だが、主要作物であるビートを使った地酒を作れないかという活動は10年前から始まっていた。だが「言うは易し」の試行錯誤が続き、ついに話が田中さんのもとに。早速醸造・酵母・販売のプロを集結した共同研究プロジェクトを作り、平成21年経済産業省の地域イノベーション創出研究開発事業に採択された。
製造工程は次のとおり。十勝地方に咲く野草エゾノヨロイグサから分離した酵母を用いて日本甜菜製糖株式会社芽室工場で生産されたビート糖蜜をアルコール発酵させる。醸造・蒸留・熟成の酒造りは池田町ブドウ・ブドウ酒研究所で行われる。
「この地酒は造る過程から市民の皆さんに知っていただきたいと思い、野草サンプルの収集にも随分ご協力いただきました。おかげで合計711サンプルの中からアルコール生成の効率がよく、香りも味もまろやかな酒ができる最上の酵母を選抜することができました」
プロジェクトの統括事業代表者を務めた田中さんには、どんな集まりでも必ず繰り返す言葉がある。「十勝は一つ」。地域ブランドの威力を発揮するには地元の団結がいる。皆が力と心をあわせて十勝の明日を作っていこう。そう呼びかけ、美しい琥珀色に輝く十勝産リキュールも「ビートのこころあわせ」と命名された。
田中さんが商品開発を進める一方で、藤倉さんの役目は人材ネットワークを作ること。帯広市・帯畜大学主催の「十勝アグリバイオ産業創出のための人材育成事業」は社会人を対象にした5年事業。新規プロジェクトを企画・推進できる人材と生産現場におけるリーダーの養成を目的とし、今年最終年度を迎える。
「帯広にはパワフルな経営者がたくさんいますが、この事業は組織の中で次のリーダーになる若手が主役。20代から50代まで様々な業種の方が集まり、横のつながりが生まれていきました」
70人近くいる受講生の中には別会社を作り自ら販路開拓に乗り出した酪農家の例もある。今後は食と農林漁業を柱とする地域産業政策「フードバレーとかち」としてネットワーク作りが継続されていく見込みだ。
このように、商品開発やネットワーク作りで十勝帯広の地域活性を支援する帯広畜産大学地域連携推進センター。「一般の方にとってまだまだ大学の敷居は高い。私たちもどんどん外に向かって出て行きます」という藤倉さんの言葉に田中さんもうなずいた。
取材当日、藤倉さんの膝の上には3歳の愛娘かえでちゃんがいた。突然の発熱で病院に行ったあと、センターに連れてきて様子を見ていたのだ(後日聞いたところによると、この日は午後から休暇を取っていたそうだ)。「帯広は生産地から製造地へ」と語りながら、ぽんぽんと小さな背中をたたき続ける藤倉さん。現在は趣味の登山も休み、娘の成長を見守っている。
他方、藤倉さんの腕の中で静かになったかえでちゃんを気遣い、「寝たか?」と小さな声で問いかける田中さん。「休みの過ごし方?ほとんど大学だね」。通う場所はグラウンド。学生時代から始めたラグビーボールを現役で追いかける。
2年前にセンター勤務となり、2人と同じコーディネーター職に就いています。コーディネーターといえば黒子の立場ですが、田中さんは馬力のある巻き込み上手…【次のページへ】
リキュール発売の2月11日は田中さんの誕生日。「偶然だねえ」、そう笑う茶目っ気の奥には発売日を早々に決めてプロジェクト全体の動きを活発化する狙いがあってのこと、なのである。
白い花でおなじみのエゾノヨロイグサ。アルコール造りに適した酵母を見つけるため、711サンプルの中から選ばれた。
池田町ブドウ・ブドウ酒研究所で使われている単式蒸留機(ポットスチル)。2回蒸留することで繊細な香りを作り出す。
十勝管内の新しい産学官金連携コミュニティ「とかちネット」事務局も務める藤倉さん。「会員は個人参加。行政の方も大歓迎です」