北海道の産学官連携の要になる人々を紹介します
釧路にIターンしてまもなく7年になる。技術支援コーディネートの経験を重ねながら、自分の中に打ち立ててきたことがある。
「私どもはあくまでもお手伝いの立場であって、一番大切なものは企業様の意欲です。まず初めに企業様のやる気があって、それを実現させるために補助金や助成金がある。この順序を勘違いしないようにいつも自分に言い聞かせています」。
おだやかな雰囲気に丁寧な言葉遣いの原田さん。さまざまな主張を調整するという仕事柄、押しの強い相手が出てくる場面もあるかもしれない。そんなときにも「企業様と同じ方向を見つめ、修正すべき点は言いづらいことを言ってでも修正していくのが私の仕事」とブレない芯の強さが、地元企業や各団体の枠を越え厚い信頼を集めている。
「釧路のひとは海ばかりを見ている。そろそろ振り向いて山を見たらどうなんだ」。仕事の関係者に言われたその一言が、いま原田さんの頭から離れない。「確かに言われたとおり、釧路・根室は道内屈指の酪農地帯でもあります。自分の視野の狭さに気づかされた一言でした」。
釧路の酪農家のためにできることは何か。関係者から『宿題』をもらった原田さんは手始めにバルククーラーに貯蔵した原料乳の温度履歴情報がわかる監視装置の開発に取り組んだ。完成した装置は実際に酪農家の品質管理に一役買っている。現在は臭気対策を施した新ふん尿散布機を開発中で、観光バスのルートにも影響していた臭い問題の解決を目指す。
原田さんの活動範囲は釧路・根室管内と広域に渡る。「根室だと日帰りで走行距離が120kmくらい。たいした距離ではありません。もっと出かける機会を作って、おもしろいことを探しに行きたいですね」と今後の抱負を語る。
あちこち飛び回っている原田さん、休日はさすがに疲れをとるため家でじっとしているのではないか。
「元気なときは川釣りに出かけますが、最近はもっぱら映画鑑賞でしょうか。実は妻が一日中映画館にいてもいいような映画好きで、釧路に移住を決めたのは釧路町にシネコンがあったことも大きかったです」と教えてくれた。
住まいは、特別天然記念物タンチョウの生息地で知られる鶴居村。ここでも原田さんの出番が待っていた。「鶴にちなんだたまご型のチーズを作りたい」という村の要請を受け、実現不可能とされてきた「たまご型ナチュラルチーズ」の開発に着手。試作を重ね、ついに特殊モールド(型)を完成させた。これがきっかけとなり、妻も近隣の農家と一緒にチーズづくりを始めたという。
「自分が住んでいるところを元気にできるのも、この仕事の醍醐味かもしれないですね。私は漁師さんと船に乗ったり、妻はチーズを作ったりなんて二人とも以前では考えられなかった姿です。この仕事になってから妻によく“人が変わった”と言われます。まだ足りないところはいっぱいありますが、自分でも“ずいぶん大人になったなぁ”と思うこともあるんですよ」
上司であるセンター長・酒井さんと、同僚・瀧本さんからみた原田さん。(…次のページへ)
原田 隆行さん
「自分が住んでいるところを元気にできるのも、この仕事の醍醐味かも」
補助金(ほじょきん)とは、政府が直接的または間接的に公益上必要がある場合に、民間や下位の政府に対して交付する金銭的な給付のことである。(Wikipediaより引用)
ここでは、主に民間企業の研究開発を補助する公的な補助金制度を指している。
釧路〜根室間は約120kmなので、ここでの言及は片道分かと思われる。往復だと240km以上となるので「たいした距離」ではある。