北海道の産学官連携の要になる人々を紹介します
企業支援歴10年のなかで最も思い出深いプロジェクトは、「旭川機械工業株式会社さんと道総研林産試験場との連携で開発した3Dターニングマシンです」。
もとは道総研林産試験場の製品開発グループ研究主査、橋本裕之さんが取り組んでいたシーズ「チップソー(丸のこ)の高速回転と主軸の回転で実現する非対称の旋盤技術」があったという。曲線でも非対称でも思い通りの形に木材を削ることができる夢の技術が眠っていた。
この技術に惚れ込み目をつけたのが、昭和22年創業の老舗企業、旭川機械工業株式会社だった。脱・下請けを目指し、メーカーとして自分たちのPBを持ちたいと、商品化に手を挙げた。平成20年のことだった。
相談を持ちこまれた中川さんの最初の役目は、どの支援事業を導入するかを考えること。このとき、国が指定する「地域資源」の中に「旭川の機械金属」が入っていることを突き止めた中川さんたちは、すかさず経済産業省の地域産業資源活用事業計画の認定を取得。そこからスタートアップし、プロジェクトが動き出した。
「3Dターニングマシン」の特徴は、コンピュータ上で作られた3次元モデルとチップソーを用いて、複雑な非対称の加工を可能にする点にある。これまでの木工加工機では困難だった自由な木工デザインが実現できる。
加えて、車椅子利用者などの障がい者が使うことを視野に入れたユニバーサルデザインに苦心した。彼らが容易に操作しやすい場所にモニター画面を設置する、あるいは切削中は機械のスライドカバーが開かないように自動ロックする、作業ごとに音声ガイダンスが流れるなど、木工のまち、旭川の知恵と技術が、障がい者のものづくりを後押しする気持ちが込められている。
試作機第一号ができた後は、全国各地の展示会に出品し、見学者の感想に耳を傾けた。日頃は寡黙な技術者たちも、お披露目の場があることがモチベーションとなり、技術向上や本体のスリム化に力を注いでいった。
そうして完成した「3Dターニングマシン」は技術面だけでなく地域・産業振興の面でも数々の賞を受賞し、中川さんが一番うれしかったと語る第9回新機械振興賞機械振興協会会長賞にも輝いた。北海道の企業として初の快挙だった。
「私たちが受賞した年は、一番上の経済産業大臣賞がマツダさんで、二番目の賞も有名企業。その次が北海道の名もなき私たち(笑)。審査の時点で販売実績はまだ一桁だったんですが、技術の高さと、この技術がどれだけ社会に貢献できるかを評価しての受賞だったとうかがったので、とてもうれしかったです」
「3Dターニングマシン」の初契約は、九州の福祉施設だった。マシン自体に自信はあったが、「それで一体何を作ればいいの?という施設からの素朴な疑問に、中川さんは知恵を絞ったという。
「たとえば、国体があるならそのマスコットやアニメの人気キャラクターを作ったらどうですか?と、お客様の立場になっていろいろな使い方を考えてみる。
メンテナンスも、九州と北海道の距離を考えると我々だけで動くのではなく地元企業と組めば、お客様には“なにかあったら近くの企業が飛んできてくれますよ”と安心してもらえます」
納品後も考えた細やかな提案営業で、一件一件契約を伸ばしていった。
当初チーム内ではあまり乗り気でなかったYouTubeへの動画配信も、中川さんが背中を押した。北陸の傘専門店から打診がきたときに、どこでマシンのことを知ったかを聞いた答えは「動画を見て感動した」。動画効果を証明してくれた。
企業支援を始めた当初、物事が生まれる起点あるいは分岐点にいられる楽しさに気がついた。同時に、どんな専門家でも専門外の分野には思わず臆してしまうことも…【次のページへ】
中川さん:「技術の高さと、この技術がどれだけ社会に貢献できるかを評価しての受賞だったとうかがったので、とてもうれしかったです」
昭和25年、北海道で唯一の林産研究機関として設立。木工のまち・旭川から道産木材の活用を推進し、企業や研究機関と手を携えて木の魅力を発信する。平成22年4月、地方独立行政法人化。共同研究や受託研究のかたわら設備利用を含めた技術支援を展開する。